圧迫療法はなぜ有効か?
圧迫療法というのは歴史をさかのぼると古代ギリシャの時代から行われている方法です。医聖として有名なヒポクラス(紀元前460-377)が静脈瘤の治療に圧迫が重要であることを記述しています。ところで足を強く圧迫すると足の健康に悪いのではないと思われるかたがいらっしゃるかもしれません。たしかに足の一部分を強く圧迫すると静脈の流れが悪くなるので静脈瘤は悪化します。静脈瘤の治療用に使用される弾性ストッキングというのは、足先から太ももに向かって次第に圧迫圧が少なくなるように工夫されていますので、静脈血流が悪くなることはなく、静脈の働きを助ける作用があります。足を圧迫することにより、拡張した静脈は圧迫され余分な静脈血が減り、深部静脈の流れが良くなります。その結果むくみがへり、足が細くなります。
圧迫用のストッキングはいろいろなタイプが市販されています。主なものは膝までの長さのハイソックスタイプ、太ももまでのストッキングタイプ、パンティーストッキングタイプの3種類です。その他に妊婦さん用のマターニティストッキングもあります。圧迫圧もいろいろなものがあり軽症の静脈瘤の方は足首の圧が20 mmHgから始め、静脈瘤が大きくなってくると30mmHg台のものを、重症の静脈瘤のかたには、40mmHgのものが使用されます。どのタイプを使用するかは患者さん個々や治療法により異なってきます。弾性ストッキングを正しく選ばないと治療効果がないばかりか、足のしびれや痛みなどの危険な合併症が生じることがあります。弾性ストッキングの購入の前には必ず専門の医師の診察を受けてください。
弾性ストッキングをはく場合の注意点
爪や装飾具などでストッキングを傷つけないようにしましょう。傷つけた場所の圧迫圧が弱くなり十分な治療効果がでないことがあります。
足先のしびれや痛みがないか注意してください。足が締まりすぎて動脈の血流が悪くなると足先のしびれや痛みが出ます。我慢しないですぐに医師の診断を受けましょう。
弾性ストッキングの寿命は約半年です。圧迫圧が弱くなると治療効果がありません。定期的に交換する必要があります。
高齢の方などで手の力がないとうまくはけないときには家族のかたなどの協力が必要な場合もあります。
弾性ストッキングをはいてはいけない人
以下のような症状のあるかたは事前に医師と着用について相談してください。
1足先がしびれる 冷感がある 歩いたときに足が痛くなって歩けなくなるなど足の動脈硬化の強い方は弾性ストッキングをはくと症状が悪化することがあります。
2 心臓の悪い方は弾性ストッキングをはくと心臓の負担が増加し心不全が増悪することがあります。
弾性ストッキング購入ガイド
静脈瘤のストッキングは静脈瘤の治療において大変重要なものですが、残念ながら現時点では保険適応になっておらず自費で購入する必要があります。いろいろなタイプがあり、値段も高価なものもありますので、医師、ナースと相談の上十分に検討し購入してください。
以上の静脈瘤用のものとは別に手術後の深部静脈血栓などを予防するための弾性ストッキングもあります。基本的には使い捨てで保険適応にもなっています(平成16年4月より)。
弾性ストッキングの手入れ
弾性ストッキングでは圧迫圧が重要です。洗濯は手洗いで行い、日陰干しをします。
弾性ストッキングについて多い苦情、質問
1きつくてはけない
患者さんから最も多い苦情です。特に弾性ストッキングのはき方に慣れるまでは大変かもしれません。弾性ストッキングは普通のストッキングのはき方ではうまくはくことができません。手順は以下のとおりです。
どうしてもうまくはけない人のために、補助器具も作成されています。
2脱ぎにくい
弾性ストッキングはまた脱ぐときも大変です。ストッキングを塊にしないではくときと同様すこしづづ脱ぎましょう。
3ストッキングが落ちてくる
ガーターベルトを使用するとずり落ちることを予防できます。またシリコンの滑り止めを使用するとずり落ちることが減りますが、シリコンにかぶれる人が多く見られます。
4 足を締めすぎて心配
初めてはくと締付ける圧が強いので心配になるかもしれません。ある程度圧迫圧が強くないと効果はありません。足の痺れがでるようでしたらすぐに主治医に相談してください。動脈の血流障害の可能性があります。
5 暑くてはけない
特に夏は暑くてはけないという訴えが多くなります。静脈瘤の症状は夏に悪化しやすいので、大変ですがなるべく着用してください。
静脈瘤 Q&Aコーナー
Q1 弾性ストッキングを着用すると下肢静脈瘤がよくなりますか。
A1 静脈瘤の方が弾性ストッキングをはくと足が軽くなった、疲れにくくなった、むくみがとれたといわれるかたが多く見られます。実際にAPGという機械で静脈機能を測定してみると、ストッキングをはいた場合に逆流が少なくなっている方がいます。残念ながら静脈瘤そのものを直す方法ではありませんので、静脈瘤がなくなる訳ではありません。
Q2 どのようなタイプの静脈瘤だとエンドレーザー治療で治療できますか。
A2 大伏在静脈 小伏在静脈といった表在静脈の逆流が原因で静脈瘤になっている方はエンドレーザー法で治療できます。深部静脈(体の奥の静脈)が原因の方はこの治療法では治療できません。側枝型や網の目状、クモの巣状といった軽い静脈瘤のかたは硬化療法や表在レーザー(皮膚の上からレーザーを照射する)方法が有効です。
Q3 エンドレーザー治療後の皮下出血はどれくらいで治りますか。
A3 エンドレーザー後の皮下出血はだいたい1-2週間で自然に消えていきます。かならず消えていきますので心配はいりません。
Q4 足に赤くて細い血管がたくさんあります。治療した方がよいのでしょうか。
A4クモの巣状タイプの静脈瘤だと思われます。症状はないことがほとんどですので、そのまま放置してもかまいませんが、気になるようでしたら30Gの針を使った硬化療法または表在レーザーにて治療は可能です。
Q5エンドレーザーで表在静脈を閉塞しても大丈夫ですか。
A5 表在静脈をレーザーで閉塞して大丈夫かといった疑問を持たれるかたがいます。足には表在静脈のほかに足の奥に深部静脈という太い静脈があります。表在静脈を閉塞すると静脈血は深部静脈の方を流れ心臓まで還流しますので全く心配ありません。静脈瘤の手術前に深部静脈が開存していることを超音波検査などで確認することが重要です。
Q6足に大きな静脈瘤がありますが、症状がありません。治療を受けた方がよいでしょうか。
A6 下肢静脈瘤は悪性の病気ではありませんので、足が重い、色素沈着などの症状がなく、静脈瘤の見た目が気にならなければ特に治療しなくてもかまいません。
Q7どのような場合に下肢静脈瘤の治療を受けたらよいでしょうか。
A7 一般的に次のような症状があるかたは治療を受けた方がよいでしょう。
1 足が重い、疲れやすい、むくみがある、足がつりやすいなどの症状に悩まれている方は治療を受けた方がよいと思います。治療を受けて快適な生活を送りましょう。
2 かゆみ 色素沈着 潰瘍など皮膚合併症のある方は早急に治療を受ける必要があります。静脈瘤が原因と思われずに治療を受けていることもあります。専門医に相談することをお勧めします。
3 血栓性静脈炎を繰り返す方は肺塞栓の原因となることもありますので、治療を受ける必要があります。
4 静脈瘤自体が気になる方は治療を受けて快適な生活を送りましょう。いつも静脈瘤を気にしてスカートをはけないといったことがなくなり、これまで気になって入れなかったプールや温泉にも気にせず安心して入ることができます。
Q8エンドレーザー法では静脈瘤の再発はありませんか。
A8エンドレーザー法は新しい治療法であり長期的なデータはありません。私たちの経験では一年以上経過した症例を見てみますとエンドレーザーによる治療を行った静脈は時間が経つにつれて急速に小さくなっていき6ヶ月から1年経てばほとんど超音波では見えなくなります。このことからエンドレーザーによる治療が初期成功した場合(現在のところ98%)長期的に治療した血管の原因による静脈瘤の再発の可能性はきわめて低いと思われます。
Q92年前にストリッピング手術を受け、静脈瘤は一旦良くなったのですが、最近足のかゆみがひどくなってきました。静脈瘤は治ったはずなのに何か他の病気でしょうか。
A9 ストリッピング手術で表在静脈の逆流は良くなっているはずなので、深部静脈の逆流が疑われます。早めに静脈逆流の検査を受ける必要があります。
Q10足の血栓性静脈炎を起こしてしまい、静脈瘤の治療を受けるようにいわれましたが、エンドレーザー法を受けてもかまわないでしょうか。
A10エンドレーザー法は血栓性静脈炎の急性期でなければ受けてかまいません。急性期(痛みが強く血栓化傾向が強いようであれば少し待って状態が安定してから受けた方がよいでしょう。
Q11硬化療法は何回受ければよいでしょうか。
A11静脈瘤の程度や範囲によって必要な回数は違います。また一旦完全に治っても静脈瘤はまた別の場所にできる可能性もあります。静脈瘤の治療は一回すればそれで一生治療が必要ないというものではなく、長期間(数年ー20年ぐらい)のうちには加齢に伴い(たとえばシミやしわが増えてくるように)新しい静脈瘤ができてくるかもしれません。大きくなってしまうと硬化療法といった簡単な方法ではなかなか治療できなくなります。定期的な検診と早目の追加処置(ほとんどが硬化療法)による足のメンテナンスが静脈瘤の治療においては重要です。
Q12 足に静脈瘤がある28歳の女性です。妊娠後に静脈瘤が悪化することがあると聞いたのですが、妊娠する前に治療をしておいた方がよいのでしょうか。
A12 静脈瘤が妊娠出産で悪化することは知られています。妊娠中には悪化しますが、出産後次第に軽快することが多く見られますのであまり心配なさらなくても良いと思います。症状がひどくなければ妊娠前に治療を受ける必要はありません。妊娠中はマターニティ用のストッキングをはいて適度に運動して下肢の静脈還流を改善しましょう。出産後も静脈瘤の改善が認められなければ一度専門医の診断を受けましょう。
Q13 下肢静脈瘤で足を切断しなければならない場合はありますか。
A13 静脈瘤が原因で下肢を切断することはありません。足の切断が必要となるのは静脈の病気ではなく動脈の血行障害です。
Q14 下肢静脈瘤が破れて出血することはありますか。
A14 静脈瘤からの出血はまれです。事故などの外傷や強くぶつけたときなどで起きる危険性はあります。また皮膚に潰瘍のある方は出血を起こしやすくなります。出血をした場合は出血している場所をしっかりと押さえてと多くは出血をコントロールできます。すぐに医師の診察を受けてください。
Q15 下肢静脈瘤の手術で動脈を傷つけ修復するためにそけい部に大きな切開創ができたと言われました。静脈瘤の手術で動脈を損傷することはあるのでしょうか。
A15 静脈瘤の手術で大きな動脈を傷つける可能性はほとんどありません。径が2mmぐらいの小さいものが静脈を横切っていることがあり、損傷することはあり得ますが、注意して手術を行えば全く問題がありません。
日帰りレーザー治療
こうち静脈ケアクリニック https://www.venonet.jp