下肢静脈瘤の検査
下肢静脈瘤の診断は以前は静脈造影という造影剤を使った侵襲的検査が主体でした。この検査では深部静脈の開存や表在静脈の逆流といったことは分かりますが、逆流の範囲や不全交通枝の存在についてはかなり診断が困難であり、また造影剤を使うことで体への負担も大きいものでした。血管造影では針を足先に刺さなければなりませんし、造影剤のアレルギーなどといった問題もあります。そのため、体に負担のない検査が待ち望まれていました。
下肢静脈瘤の無侵襲検査
1)超音波検査
最近の超音波診断装置の発達により、多くの症例で静脈瘤の原因となっている静脈逆流の正確な診断が無侵襲でできるようになりました。超音波検査は医療の現場でいろいろと使用されています。胎児の検査や心臓や肝臓の検査などについてはご存知のかたも多いと思います。超音波検査は上記のものだけでなく、静脈瘤をはじめとする血管の病気の診断にも極めて有効です。静脈瘤の場合、その原因となっている静脈逆流の診断をすることが重要ですが、超音波検査を行うことでどの静脈にどの範囲に逆流があるのかといったところが正確にわかります。ただし超音波検査では静脈瘤の重症度について判定することは困難です。治療をおこなう際には重症度評価が極めて重要です。静脈瘤の重症度は必ずしも見た目と一致しないので注意が必要です。病気の程度が良く分からないと軽い人に手術を勧めたり、重症の人に治療を勧めなかったりすることが起こり得るからです。
2)空気容積脈波(APG)
静脈瘤の重症度判定のためには空気容積脈波(APG)といった検査法があります。APGは足にビニール袋を巻いて検査しますが、20分ほどの簡単な検査で静脈瘤の重症度が数字で示されますので静脈瘤の状態が大変分かりやすくなります。APGは足を上げたときの静脈量を0として、足を下げたときの静脈量の変化をみます。静脈量の変化を直接測定することは困難ですので、足に巻いたビニール袋の圧変化を測定しこれを容積変化に換算して検査を行います。検査を受けられる病院はまだ少ないようですが、静脈瘤の治療後の判定にも有効ですので、静脈瘤の治療を受ける際には是非受けておきたい検査のひとつです。
APGの検査手順
1.ベッドに横になり、足ビニールの袋をつけ足を少し挙上して空気を入れてきます。空気がいっぱいになったところで、0点(基準点)とします。このあと100mlの空気をビニール袋の中に入れて機械のキャリブレーション(100mlの容量変化を圧変化に変換)を行います。
2.ビニール袋をつけた足を挙げて、15秒ほど待ちます。足のなかの静脈血を空にするためです。
3.ベッドからビニール袋を当てないように注意しながら床におりて、ビニール袋を巻いていない足で立ちます。両手で手すりをしっかり掴んで、そのまましばらく待ち、静脈血が足に充満するまで待ちます(VV, VFIの測定)
4.両足を床に下ろし、1回つま先立ちをした後、ビニール袋をつけた足を挙げ片足で立ちます(EV,EF)。
5.両足を床に下ろし、10回つま先立ちをした後、ビニール袋をつけた足を挙げ片足で立ちます(RVF)。
6.ベッドに戻り、横になりビニール袋をつけた足を挙上します。
7.以上で片足が終了です。引き続き他の足に同様の手順で検査を行います。
検査時間は約20分です。
APG 各指標の意味と正常値
静脈容量 Venous Volume(VV):
足の静脈の血液量が分かります。
静脈逆流量 Venous Filling Index(VFI):
足の静脈の逆流がどれだけか数字で分かります。正常値は2ml/s以下です。
この数字が逆流の評価に特に重要です。7ml 以上では静脈潰瘍の発生の可能性が高くなります。
駆出量 Ejection Volume(EV):
1回のつま先立ちでどのくらい静脈血が押し出されるかが分かります。
駆出率 Eejection Fraction(EF):
1回のつま先立ちで押し出される静脈血の割合が分かります。この指標が40%より低いとふくらはぎの筋肉の力が落ちていることを意味します。
残存容量率検査 Residual Volume Index(RV):
10回のつま先立ちのあとどれくらい静脈血が残っているかを表わしています。運動時の足の静脈圧と関係しており、異常があると高くなります。静脈圧が高くなると潰瘍発生率が高くなることが知られています。
RVFの検査値が高い場合は、潰瘍発生率が高くなることが予想されます。
APGの表の読み方
EFとVFIの両方のデータは潰瘍発生と相関関係があります。EFの低下(下腿筋力の低下があり、逆流のひどい場合は最も潰瘍の発生率が高くなります。良好な下腿筋力があると逆流がひどくても潰瘍発生率が低くなることがあります。
上の図の%は静脈潰瘍の発生率を示しています。手術の結果が最もよくでるのはVFIが5ml/sec以上 EFが40%以上のところに入る(表の右下の2つ)です。この範囲に検査結果があると、治療が必要な場合が多いので、担当医師と治療についてよくご相談ください。また、VFIが5ml/secであっても症状がきつい場合や美容面が気になるかたは担当医師と治療についてよく話し合うことが大切です。
またVFIの異常が軽くて、EFの低い方は運動療法を行うことが有効です。
このように静脈瘤の状態が数値化されるために、足の状態が客観的に評価でき治療の必要性について納得のいく説明を受けることができます。
また治療後の改善具合や経過観察にも使えるので、治療がうまくいっているかどうかの判定にも有用です。
べノネットでは無侵襲検査が受けられます。静脈瘤の治療を受ける前に無侵襲検査を受けましょう。静脈瘤の治療は正確な診断から始まります。
こうち静脈ケアクリニック https://www.venonet.jp