下肢静脈瘤は見ただけでもある程度は分かることもありますが、静脈瘤が表面に出ていなくても静脈瘤が症状の原因となっている場合も多いため、詳しく静脈の状態を調べることが必要となってきます。

以前は静脈造影という造影検査が一般的でしたが、最近は超音波検査や空気容積脈波といった無侵襲検査(体の負担のない検査)が主流となっています。
中でも静脈瘤の治療にあたって最も大切な検査が超音波検査(エコー)です。

1)超音波検査

下肢静脈瘤超音波検査装置
下肢静脈瘤の検査に使用する装置です。
下肢静脈瘤の超音波検査
下肢静脈瘤の検査は立位又は座位で行います。

下肢静脈瘤の場合、その原因となっている静脈逆流の診断が重要です。

下肢静脈の逆流をみるためには、立位または座位で行う必要があります。立位のほうが正確な評価ができますが、検査中にふらつくと危ないことや高齢者では立位をとり続けることが困難なことより、当クリニックでは座位での検査を主に行っています。座位で逆流が分かりにくい場合のみ、立位での検査を追加することにしています。

この超音波検査を行うことで、どの静脈のどの範囲に逆流があるのかといったところが正確にわかります。

これが下肢静脈瘤の治療を行う上で最も重要な情報になります。

また超音波検査をする場合、両足を同時に行い逆流程度を比較することも重要です。静脈瘤は完全に片足のみの方は少なく、両方に逆流があることが多いからです。逆流と症状との相関をみることでより正確な診断を行うことができるます。保険診療であれば、片足でも両足でも費用は変わりませんので、両足の検査を受けたほうがいいでしょう。

下肢静脈瘤に対する超音波検査の問題点

超音波検査は静脈瘤の診断に最も大切で有効な検査ですが、実は大きな落とし穴があります。

実際の静脈逆流は非常に遅いため、そのままでは超音波(カラードプラー法)で検出することができず、ミルキングといって足の筋肉を圧迫、解放して、逆流を人工的に発生させて超音波検査を行っています。

このミルキングの仕方によって逆流の程度が変わってくるので、ミルキングがうまくいかないと逆流があっても見落としかねません。特にふくらはぎの筋肉が多い方や浮腫の強い方では、ミルキングが難しいことがあります。

他の検査に比べて、相当な熟練がいる検査ですので、経験の多い医師や技師の検査を受けることがとても大切です。

超音波画像とミッキーマウスの関係

実際の超音波検査では下肢の静脈はこのように見えます。静脈瘤になっている方の多くが、ソケイ部(太もものつけ根)の静脈に逆流がでています。この写真は大伏在静脈が深部静脈へはいるところです。形がミッキーマウスに似ていることから、ミッキーマウスサインともいわれています。

下肢静脈エコー 大伏在静脈合流部
超音波検査所見:ミッキーマウスサイン

正常の場合:

大伏在静脈から深部静脈へ血液が流れるため(手前から奥)、青く色がつきます。

下肢静脈エコ― 正常
正常の静脈では、このように青く見えます。

静脈瘤の場合:

大伏在静脈と深部静脈との間の弁が壊れると血液が逆流(反対向き)に流れるようになります。下の写真では赤く色がついているところが逆流しています。このようにカラードプラーを使うと間単に悪くなった静脈を見つけることができます。

下肢静脈エコー 静脈瘤
下肢静脈瘤の場合、逆流が赤く見えます。

このほか下腿にある不全穿通枝や血栓症の評価にも超音波検査は有用です。

静脈瘤の重症度評価については空気容積脈波という機能検査が行われています。

かつては重要な検査の一つでしたが、治療法の変遷とともに重要度は低下しています。深部静脈の逆流や治療前後の比較にはいい方法だと思います。

海外のクリニックで使っているのは見たことがありません。

参考までに記載しておきます。

2)空気容積脈波(APG)

APGは足にビニール袋を巻いて検査しますが、20分ほどの簡単な検査で静脈瘤の重症度が数字で示されますので静脈瘤の状態が分かりやすくなります。APGは足を上げたときの静脈量を0として、足を下げたときの静脈量の変化をみます。

静脈量の変化を直接測定することは困難ですので、足に巻いたビニール袋の圧変化を測定しこれを容積変化に換算して検査を行います。

APGの検査手順

下肢静脈瘤検査 APG1

1.ベッドに横になり、足ビニールの袋をつけ足を少し挙上して空気を入れてきます。空気がいっぱいになったところで、0点(基準点)とします。このあと100mlの空気をビニール袋の中に入れて機械のキャリブレーション(100mlの容量変化を圧変化に変換)を行います。

下肢静脈瘤検査APG2

2.ビニール袋をつけた足を挙げて、15秒ほど待ちます。足のなかの静脈血を空にするためです。

下肢静脈瘤検査APG3

3.ベッドからビニール袋を当てないように注意しながら床におりて、ビニール袋を巻いていない足で立ちます。両手で手すりをしっかり掴んで、そのまましばらく待ち、静脈血が足に充満するまで待ちます(VV, VFIの測定)。

下肢静脈瘤APG4

4.両足を床に下ろし、1回つま先立ちをした後、ビニール袋をつけた足を挙げ片足で立ちます(EV,EF)。

下肢静脈瘤検査APG5

5.両足を床に下ろし、10回つま先立ちをした後、ビニール袋をつけた足を挙げ片足で立ちます(RVF)。

下肢静脈瘤検査APG6

6.ベッドに戻り、横になりビニール袋をつけた足を挙上します。

7.以上で片足が終了です。引き続き他の足に同様の手順で検査を行います。
検査時間は約20分です。

APG 各指標の意味と正常値

静脈容量 Venous Volume(VV):
足の静脈の血液量が分かります。

静脈逆流量 Venous Filling Index(VFI):
足の静脈の逆流がどれだけか数字で分かります。正常値は2ml/s以下です。
この数字が逆流を評価するうえで特に重要です。7ml/s以上では静脈潰瘍の発生の可能性が高くなります。日本人は若干低めにでることがあるので、女性の場合だと、1.5ml/s以上だと静脈逆流のある場合があります。

駆出量 Ejection Volume(EV):1回のつま先立ちでどのくらい下腿の静脈血が押し出されるかが分かります。

駆出率 Eejection Fraction(EF):1回のつま先立ちで押し出される静脈血の割合が分かります。この指標が40%より低いとふくらはぎの筋肉の力が落ちていることを意味します。

残存容量率検査 Residual Volume Index(RV):
10回のつま先立ちのあとどれくらい静脈血が残っているかを表わしています。運動時の足の静脈圧と関係しており、静脈圧が上昇していると高くなります。静脈圧が高くなると潰瘍発生率が高くなることが知られています。
RVFの検査値が高い場合は、潰瘍発生率が高くなることが予想されます。

APGの表の読み方

下肢静脈瘤検査APG7

この検査にはグラフ機能がありこのような表がプリントされます。EFとVFIのデータは静脈潰瘍発生と相関関係があります。EFの低下(下腿筋力の低下があり、逆流のひどい場合は最も潰瘍の発生率が高くなります。下腿筋力が強いと逆流がひどくても潰瘍発生率が低くなることがあります。

上の図の%は静脈潰瘍の発生率を示しています。手術による治療効果が最もよくでるのはVFIが5ml/sec以上 EFが40%以上のところに入る(表の右下の2つ)です。この範囲に検査結果があると、治療が必要な場合が多いので、担当医師と治療についてよくご相談ください。

また、VFIが5ml/sec以下であっても症状がきつい場合や美容面が気になるかたは担当医師と治療についてよく話し合うことが大切です。
またVFIの数字が少なく、EFの低い方は運動療法を行うことが有効です。

このように静脈瘤の状態が数値化されるために、足の状態が客観的に評価でき治療の必要性について納得のいくことができます。
また治療後の改善具合や経過観察にも使えるので、治療がうまくいっているかどうかの判定にも有用です。

空気容積脈波の問題点

膝から下の病変については評価が十分できないということが挙げられます。

膝の裏にある小伏在静脈の逆流がある場合や、大伏在静脈の逆流が足首まであって、膝上のみの逆流を治療した場合などは、逆流の数字が低くでてしまいます。

このような場合は検査値と症状の間に乖離が見られるため、静脈瘤による症状を見逃してしまう可能性があります。数値は改善しているので、治療した医師も治ったような気がしてしまうからです。

このような点からAPG検査は下肢静脈瘤検査の補助的な役割にすぎず、エコー検査が発達した現在では臨床的な意味はあまり大きくはありません。
またそのほかにもいろいろな検査がありますが、海外で臨床の場で実際によく使われているのもはなく、静脈瘤の治療にあまり役立つものはありません。
静脈瘤の症状が診断できる新たな検査方法の出現が待たれます。

Veinviewer

下肢静脈瘤検査veinvewer
Veinviewerによる下肢の静脈検査

赤外領域の光源と赤外カメラを使用し、画像をコンピューター処理しています。
この方法は、放射線は使用しないので、血管造影のような体への負担はありません。

また、静脈瘤ばかりでなく静脈が小さくて点滴に困っているかたや子供にも注射や採血が容易となる方法です。

現時点では十分な画質が得られていませんが、今後この方法が発展すると静脈が見えないので点滴ができないということはなくなる日が来ると思います。

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