下肢静脈瘤とは足の静脈が太くなってコブ状に浮き出て見えるようになった状態をいいます。
大きさや走行はさまざまで、大きく分けると伏在型 側枝型 網目状 クモの巣状の4つのタイプに分類されます。
通常は一つのタイプだけではなく、いくつかのタイプが混在しています。
写真を見てご自分の足の状態がどれにあたるのか参考にしてください。
ここに挙げた表面に出るタイプはわかりやすいのですが、下肢静脈瘤の中には表面に出ないいわゆる隠れ静脈瘤も多いので注意してください。
伏在型 下肢静脈瘤
最も大きな静脈瘤であり、治療を希望されて来院される患者さんの多くがこのタイプの静脈瘤です。
通常、大腿部の内側や下腿に大きな血管のコブが認められますが、あまり表面にコブの目立たないタイプがあるので注意が必要です。
どの表在静脈が原因で静脈瘤になっているかで2つのタイプに大別できます。
①大伏在静脈由来の下肢静脈瘤
主に下腿内側や前面に大きなコブができるタイプです。進行すると太ももまで静脈瘤が出てくることがあります。
一番多く見られ(全体の約90%)、大きくなりいろいろな症状を起こしやすい静脈瘤です。
②小伏在静脈由来の下肢静脈瘤
主にふくらはぎの裏にコブができるタイプです。
自分ではよく見えないところですので、友人や家族に指摘されて気づくことも多いタイプです。
全体の約10%を占めます。症状が少しマイルドになり大伏在静脈が原因の静脈瘤の方に比べるとわかりにくいこともあります。
伏在型の下肢静脈瘤では、静脈瘤の原因となっている静脈逆流を止める処置を行うと静脈瘤が縮小します。
レーザー治療、高周波治療、ストリッピング手術、高位結紮&硬化療法などで逆流している静脈を閉塞して治療しますが、最近ではレーザー治療が最も安全で確実に治療できます。従来の手術は今後は次第に行われなくなるものと思われます。
大伏在静脈と小伏在静脈の両方に逆流を生じているケースもよく見かけます。もし両方が悪い場合は両方同時に治療することも必要です。どちらかが残ると症状が強く残ることがありますが、その場合保険診療が使えないため治療法の選択肢が手術に限られます。
静脈瘤が大きい場合は、硬化療法や瘤切除などによって瘤の処置を追加する場合があります。
当クリニックでは出血や傷跡が多数残る瘤切除は一切行わず、最新のレーザー治療技術を用いて、レーザー治療で瘤自体もなるべく処理するようにしています。
側枝型 下肢静脈瘤
伏在静脈の枝が拡張したもので伏在静脈本幹の逆流がなく孤立してみられます。単独で見られることは比較的少なく、前述の伏在型が合併していないかどうかをよく調べる必要があります。
大腿前面にあるものは、外側副在静脈、大腿後面にあるものには、Giacomini静脈という名前がついています。
レーザー治療、硬化療法などで治療できます。この写真のように蛇行している場合は、一般的にレーザー治療やストリッピング手術は有効ではなく、硬化療法が主体となります。
網目状静脈瘤
2-3mmの静脈の拡張で青色の網目状のものが多くみられます。皮膚の直下の静脈が拡張して見えるタイプです。
硬化療法できれいに治すことが可能です。レーザー治療は一般的に有効ではありません。
クモの巣状静脈瘤
1mm以下の細いものですが、紫紅色でクモの巣のように目立つため美容目的で治療を希望される場合が多いものです。足全体にできてきたり、中には痛みを伴うことがあります。
マイクロ硬化療法、表在レーザーで治療可能です。
下肢静脈瘤によるうっ滞性皮膚炎
うっ滞性皮膚炎といって、下肢静脈瘤が進行すると下腿に静脈血がたまるため、皮膚の栄養状態が悪くなり赤い湿疹が出て皮膚がかゆくなることがあります。
さらに進行すると皮膚の焦げ茶色や黒い色素沈着と皮膚硬化が進みますが、静脈瘤自体はかえって目立たなくなる場合があります。
ひざ下が黒くなって皮膚が硬くなっている場合、静脈瘤による皮膚病の可能性があります。
また皮膚に傷ができてなかなか治らず、長い間困っているかたを見かけますが、静脈瘤が表面に出ていないとそれが原因とはなかなか気づかれないことがあります。
静脈逆流を治療すると色素沈着は軽快していきますが、長い時間がかかることがあります。皮膚の潰瘍も静脈逆流がなくなれば時間の経過とともに軽快します。
うっ滞性皮膚炎や潰瘍になると静脈逆流に対して治療が必要となり、レーザー治療、高周波(ラジオ波)治療、ストリッピング手術、SEPS、エコーガイド下硬化療法などが用いられます。
静脈性潰瘍は難治性のことが多く、静脈逆流をできる限り治すことが重要です。
大腿部のみならず、下腿の静脈逆流(不全穿通枝)を処理することも大切で、レーザー治療やエコーガイド下硬化療法が有効です。
最近は静脈瘤があまり目立たず、皮膚病から発症する静脈瘤の方も多く見かけます。
皮膚科で長い間治療をうけても、なかなか治らない皮膚病のかたは静脈瘤が原因の可能性があります。一度ご相談ください。
足の静脈の基本的構造
アルケア 下肢静脈瘤 原因と治療より一部改変
(平井正文先生のご好意による)
足の静脈には大きく分けて足の表面に近い表在静脈(大伏在静脈と小伏在静脈の2本)と足の奥深くにある深部静脈、表在静脈と深部静脈の間を結ぶ交通枝というものがあります。
静脈血の90%は深部静脈を流れていきます。表在静脈を流れるものは10-15%といわれています。
下肢静脈瘤の原因には表在静脈(大伏在静脈、小伏在静脈) 交通枝 深部静脈の異常のそれぞれがあります。このなかで下肢静脈瘤の治療対象となる頻度が高いのは、表在静脈 交通枝の異常です。
静脈瘤は皮膚の表面にあるため目立ちますが、静脈瘤そのものが病気の原因ではなく、静脈逆流のある伏在静脈や交通枝が悪いために結果的に静脈瘤となっているのです。
そのため治療する場合は静脈逆流を起こしている静脈を見つけて、その逆流を確実に止めることが重要です。
逆流を止めることで、静脈瘤に入っていく血流が減り静脈瘤が縮小していきます。
逆流を残したままで静脈瘤そのものをとったり、硬化療法するだけでは不十分な場合が多く、静脈瘤の術後早期の再発につながります。
静脈瘤を長期間にわたって放置していていろいろな静脈から逆流がある場合は、逆流を止める処置のほかに硬化療法や瘤切除が必要となります。
また下肢静脈瘤の治療の際に、
表在静脈の流れを止めてそれまで流れていた血液はどこへ流れますか?
表在静脈の流れを止めてしまって大丈夫でしょうか?
という質問をよく受けますが、表在を流れていく血液の量は全体の10%程度であり、表在の静脈を流れていく血液は表在にある他の静脈を通って奥の静脈を流れるようになるので大丈夫です。
静脈瘤のかたは、足で静脈血が再循環しているため、足の静脈に大きな負担をかけています。表在の静脈の逆流をとめることで深部の静脈を含めた足の静脈の働きが良くなるのです。
お電話 088-882-5015
ふくらはぎは第二の心臓:下腿の筋ポンプ作用とは
動脈は心臓から押し出される力によって体のすみずみまで流れていきますが、それでは静脈はどのようにして流れるのでしょう?
静脈には動脈のような強く押し出す力は心臓からはかかりません。その代わりに静脈血は呼吸の力と足の筋肉の収縮によって心臓のほうへ少しずつ流れていきます。
ふくらはぎの筋肉は第二の心臓と呼ばれており、筋肉の収縮すると筋肉内の静脈血を上方(心臓へ向かって)へ押し出していきます。
このふくらはぎの筋肉の力が足の静脈還流に関して大変重要な働きをしています。高齢などの理由で足の筋力が弱ってきたりすると十分な筋肉の力がありませんので、静脈逆流の症状が出やすくなります。
じっと長時間立っているとほとんど筋肉を使用しないので、このポンプ作用を使うことができず静脈血が足に溜まり、足がむくんだりするようになるのです。
じっと立ったままいるより少しでも動いてふくらはぎの筋肉を使う方が足の静脈還流がよくなります。
静脈瘤のかたは適度な運動が大切です。特にふくらはぎをよく使うつま先立ちや足先を背屈させる体操などはとても有効です。
静脈の流れには、腹部の静脈の流れも関係しています。腹式呼吸を行うことで腹部の静脈の流れが良くなり、足の静脈の流れも良くなります。
足の静脈の血液の流れ
次に実際にどのように足の静脈血が流れていくかを見てみましょう。
正常の場合(下方図の左:正常を参照してください)
静脈は足先から心臓に向かって血液を運んでいる血管です。立位では血液は重力に逆らって下から上に上がっていきます。上に運ばれた血液が下に向かって逆流しないようにたくさんの逆流防止弁があります。弁が閉じると立ったときに逆流しないようになります。
弁の働きが正常の場合は足の先から上に向かって表在静脈、深部静脈とも静脈血は流れていきます。静脈の拡張もありません。
それでは静脈瘤の場合はどうなるのでしょうか?
静脈瘤の場合(上方図の右:下肢静脈瘤を参照してください
静脈瘤の多くは表在静脈(皮膚に近いところにある静脈)の中にある弁が壊れた結果、立ったときに逆流が生じて、足の先に向かって血液が下がり静脈の負担が増加し静脈が拡張していきます。
その結果、血管の弱いところが蛇行したりコブ(静脈瘤)になって行きます。
静脈瘤の場合、弁が破壊されると静脈血は下方に向かって逆流していきます。正常の場合の図と比べると表在静脈を流れる血流が下向きになっていることがわかります。
この状態が長く続くと、表在静脈の拡張が起こり静脈瘤ができてきます。
伏在型で症状が強い場合はこの弁が壊れていることが多くみられます。この場合、確実な治療を行うためには、表在静脈の逆流を出来るだけ高い位置(図の○のところ)まで逆流を止める処置が必要です。レーザー治療、ラジオ波治療、ストリッピング手術などを行うことで逆流は止めることができます。
ではなぜ立ったときに逆流が強くなるのでしょうか?
それには静脈圧と体位に以下のような関係があるからです。
立位と静脈圧の関係
足の静脈圧は体位によって大きく変化します。
静脈圧が最も大きくなるのは、立位のときです。
静脈圧は心臓の高さと足の高さの差で決定されます。心臓の高さを0とすると、この図では立位の場合、足首との間には120cm(背の高さで違います。)となり、静脈圧の差に換算するとおよそ100mmHgの違いとなります。
静脈圧はこれに10mmHgを加えたものとなるので、立位では足の静脈圧が高くなっていることが理解できると思います。
横になると、心臓との高低差が減り、静脈圧が下がります。
静脈瘤のかたは足を心臓から15-20cm程度上げて休むとよいのは静脈の圧が下がるためです。
静脈瘤の症状
足がだるい、重い、痛い、かゆい、じんじんする、むくむ、冷える、ほてる、こむらがえり(足がつる、足に湿疹ができる、足の色が黒くなる、潰瘍ができる)など
が起こりやすくなります。
特に長時間、同じ姿勢で立ったままでいると夕方に症状が憎悪することが特徴的です。
朝にはむくみや痛みが軽減していることが多くみられます。
心臓や腎臓の病気でむくんでいるときはこのようなことはあまり見られません。
かゆみも静脈瘤の症状であることが多く特に下腿のかゆみが特徴的です。静脈瘤の治療をするとよくなります。
初期には赤い発疹や、紅斑のようなものが多いのですが、さらに病状が進むと、足の皮膚の色がついたり(色素沈着)、皮膚のただれ(潰瘍)ができることがあります。こうなってからでは、治療に時間がかかり、きれいな皮膚に戻ることは難しくなります。
しびれは一般的に静脈瘤の症状ではありませんが、足がむくんでジンジンするという症状は静脈瘤の可能性があります。それ以外のしびれは腰などからくる神経症状や糖尿病などの可能性が高いと思われます。
静脈瘤の症状は一般的に冬より夏に増悪しやすくなります。
冬は寒さで血管が収縮して静脈逆流が軽くなることが原因と考えられています。
冬場は症状が軽くなっていても、また夏場になると必ず悪くなってくるので、注意が必要です。
ヘルニアや脊椎管狭窄症など他の整形外科的な病気がある場合は、鑑別が難しい場合があります。その場合まず弾性ストッキングを着用して症状が軽くなるかどうかを見てみる場合があります。
静脈瘤が原因の場合、弾性ストッキングを着用すると症状が軽くなることが多く、静脈瘤以外の原因だと症状の変化がないかかえって悪くなることがあります。
下肢静脈瘤の初期症状とは
下肢静脈瘤はその言葉から足の血管がボコボコとコブ状になったものというイメージが強いかもしれません。
このボコボコとなった静脈瘤は静脈の枝が拡張したものであり、目につきますが実は奥にある静脈の逆流があるかどうかが静脈瘤の症状に強く関係します。
この静脈本幹の逆流は一般的に瘤が大きくまって目立つよりずっと前から始まっていることが多いのです。また初期のほうが症状が強く出る場合もよくあります。
それゆえ静脈瘤が全く表面から見えないからといって静脈瘤の症状でないといえません。いわゆる隠れ静脈瘤の状態の可能性があります。
足がむくむ、だるい、痛い、重い、かゆい、ジンジンする、熱感、冷感、こむら返り、皮膚の色が黒ずんでいる、湿疹、潰瘍などの症状がある場合、静脈瘤による症状の可能性があります。
こういった症状の原因がはっきりと分からない場合は、超音波検査(エコー検査)を受けて下肢静脈瘤に本当に詳しい医師の診察を受けることが必要です。
エコー検査の判断は特に初期症状ほど難しくなりますので、下肢静脈瘤診療の経験の豊富な医師に受けることが大切です。静脈瘤専門を標榜しているところで、下肢静脈瘤ではないといわれてセカンドオピニオンを求めて当クリニックを訪れる方も多いのですが、詳しいエコー検査をしてみると下肢静脈瘤が原因であることが分かることも少なくありません。
一度病院で静脈瘤でないといわれた方も症状の本当の原因は下肢静脈瘤かもしれません。お困りのかたはご相談ください。
下肢静脈瘤と足の痛み
静脈瘤が原因で足が痛む方が最近特に増えています。
典型的には静脈瘤があるところが痛むのですが、中には静脈瘤が表面に出ていないところが痛む場合もあります。膝の変形があまり強くないのに膝の周囲が痛いかたや、なかには股間節付近まで痛くなる場合も見かけます。
静脈瘤が原因かどうかはかなり経験を積んだ医師でないと判断は難しいものです。また、整形外科などとの協力体制もかかせません。
下肢エコーによる検査や詳しい問診による評価のあと、下肢静脈瘤が痛みの原因であると判断し、静脈瘤をレーザー治療をすると痛みは消失します。
なかなか治らない足の痛みにお困りの方は一度ご相談ください。
下肢静脈瘤とかゆみ
下肢静脈瘤があると、足のうっ血(静脈の血液がたまる)が起こります。静脈血は古い血液なので、老廃物が多く皮膚の循環障害を起こします。その結果、皮膚の栄養状態が悪くなり、足がかゆくなる症状がでてきます。
最初は赤い湿疹ができたりしますが、放置しておくと色が濃くなって黒く色素沈着を起こし、次第に固くなっていきます。さらにそのまま治療をせずに放っておくとなかには潰瘍になってしまうこともあります。
かゆみは皮膚科などでステロイド剤をもらって塗って一時的によくなってもまた悪くなることを繰り返します。
かゆみの強い方はストッキングの圧迫療法の効果がないことも多いので、レーザー治療で静脈瘤をきちんと治すことが必要です。
鬱滞性皮膚炎は静脈瘤の治療をすれば次第によくなりますが、かゆみが残る場合は静脈逆流が残存している場合も多いので、硬化療法などの追加治療が必要となります。
下肢静脈瘤とこむら返り
下肢静脈瘤のかたにこむら返りが多いことはよく知られています。平井らの報告によるとおよそ7割のかたに認められたといいます。下肢静脈瘤のこむら返りは、夜間特に明け方、ふくらはぎに多いのが特徴的です。
伏在型のタイプの静脈瘤で、コブが大きく色素沈着など皮膚症状を伴ったかたにこむら返りが多いのも特徴です。
なぜ下肢静脈瘤のかたに多く見られるかは明らかではありません。激しい運動をしたあとに夜間にこむら返りをおこすことはよく経験することです。
静脈瘤があるかたは、静脈逆流により老廃物のたまった古い静脈血液が足の筋肉にたまっているため、過激に運動したときと同じ状態になりそのため夜につりやすくなるのではないかと推察します。
また、静脈瘤以外にもこむら返りを起こす場合があります。脊椎管狭窄症、動脈硬化、また全身的な病気として甲状線の病気、電解質の異常、糖尿病などが挙げられます。
静脈瘤によるこむら返りは逆流をレーザー治療すると多くの場合治ります。
下肢静脈瘤と足のむくみの関係
下肢静脈瘤のかたは長時間の立ち仕事をすると足がむくみやすくなります。
静脈逆流があると心臓に向かって血液が帰りにくくなり、足に静脈血がたまって静脈圧が上がり、余分な水分が静脈の周りに漏れることが原因と考えられます。
静脈瘤によるむくみは比較的軽いことが多く、ひどいむくみの場合は深部静脈血栓やリンパ浮腫といった病気である場合が考えられます。
静脈瘤の浮腫は夕方にひどくなり、朝にはよくなっていることが特徴的です。
また足先からむくみが始まり、膝下に限局的にみられることも特徴的です。普通の静脈瘤では、大腿部に浮腫が出ることはほとんどありません。大腿部まである場合、深部静脈血栓症やリンパ浮腫など他の病気について考える必要があります。
高齢になって歩くことが少なくなってくると、急に足のむくみが強くなることがあります(廃用性浮腫)。
最近は畳の上での生活が少なくなり、デイサービスなどで椅子に座っている時間が長くなっており、高齢者の足のむくみが大きな問題となっています。
軽症のむくみは、弾性ストッキングを着用することで症状が軽減します。また、歩行や足の体操などによっても軽減します。
重症の場合は静脈逆流に対して治療が必要となります。むくみが強い場合は治療後に足の大きさが小さくなります。
むくみは心臓病や腎臓病、甲状腺機能低下、リンパ浮腫といった病気でも生じます。下肢静脈瘤以外にもこういった病気などが隠れていないかどうかを見ることも大切です。
また中高年の女性では特発性浮腫という原因がはっきりとしない浮腫もみられます。
足のむくみを起こしやすい病気はこちらへ
血栓性静脈炎
足が突然赤く腫れて痛む血栓性静脈炎という病気があります。静脈瘤の中にできた血栓が原因で痛みを生じている場合が多いのですが、血栓がない場合もあります。深部静脈血栓症と似た症状を起こすことがありますが、全く違った病気です。
血栓性静脈炎は表面にある静脈の病気ですが、深部静脈血栓症はもっと奥にある深部静脈に血栓ができる病気です。
一般的に血栓性静脈炎が生命にかかわることはありませんが、深部静脈血栓症は命にかかわることがあるので、鑑別することが大切であり、エコー、CT、造影検査などが行われます。
また症状が似ている病気に蜂窩織炎といって、細菌感染から足が赤く腫れて痛みが出る病気があります。この場合は、血液検査をするとCRPが上昇していて、抗生物質による治療が必要です。
静脈瘤の治療時期は?
治療効果が最も高い時期は、静脈瘤があまりたくさん出ていない時期です。
あまりに多数の静脈瘤がある場合は治療に時間がかかるようになり、また血管が曲がりくねってしまうとレーザー治療が困難となってしまう場合があります。
静脈瘤に限らずどんな病気でも早い時期の治療のほうが治療成績がよくなります。以前は手術しか根本的な治療法がなかったため、治療時期を先に延ばす傾向にありましたが、レーザー治療の登場により早い時期に治療を受けられる方が増えています。
これまでの経験から、早期に受けられたかたほど、静脈瘤がきれいに治る確率が高くなります。再発が少ないかなど早期治療の有用性については今後次第に明らかになっていくことと思います。
静脈瘤を我慢していて皮膚の色が黒くなっている場合、なるべく早く治療を受けたほうがいいでしょう。特に男性のかたは静脈瘤と思わず我慢して皮膚の色が真っ黒く変わったり、潰瘍ができるまで我慢しがちですのでご注意ください。
静脈瘤は症状が一般的に夏場に強くなるため、夏場に治療を受けられる方が多くなります。その場合、レーザー治療後に着用してもらう弾性ストッキングが暑くて大変でした。最近はレーザー治療の成績が良くなったので当クリニックではレーザー治療後のストッキング着用を原則的に行っていません。そのため夏場でも治療が楽に受けられるようになっています。
静脈瘤のできやすい人は?
女性:男性に比べ、発生頻度が高くなります。
遺伝:血縁者に静脈瘤のある人におこりやすく、また重症化しやすくなります。
妊娠:妊娠中に静脈瘤ができる人が多く、特に2番目以後の妊娠でできる場合が多く見られます。
立ち仕事:長時間立ち仕事を行う人に多く、症状の増悪が認められます。また重いものと持つ仕事の方も悪化しやすい傾向にあります。
年齢:年齢が高くなるほど静脈瘤の発生頻度は高くなります。
静脈瘤は一般的に高齢者の病気だと思われることが多いのですが、実際は若い時から静脈瘤は始まっていることが多いのです。
特に立ち仕事が長い若いかたは、静脈瘤があまり表面に出てなくても、静脈逆流が長時間にわたると足が痛い、足がじんじんする、だるい、むくむなどの症状がきつくなります。
またご両親やご兄弟など血縁の方に静脈瘤がある場合、静脈瘤になる可能性や重症化しやすい傾向にあります。
このような症状でお悩みの方は簡単な超音波検査(エコー)で分かりますので、検査を受けて詳しく調べてもらうといいと思います。
妊娠と静脈瘤
妊娠がきっかけで静脈瘤となるかたは比較的多く見られます。一般的に妊婦さんの10-15%に静脈瘤が発生しますが、出産後にはそのうちの80-90%は消失していきます。
出産後には静脈瘤の多くが消失していきますので、原則として妊娠中は治療を行わず、出産後数ヶ月様子をみてから治療をおこなっていきます。
陰部静脈瘤というのは大腿最上部の内側皮下や大腿後面に出来ることが多く、生理時に症状が悪化する特徴があります。
足の静脈瘤に合併していることがあり、治療を受ける際に注意が必要です。
治療は硬化療法が行われます。
お電話 088-882-5015
参考: 慢性静脈不全の臨床分類について
静脈瘤の状態を分類するためにCEAP分類という分類がよく使われています。例えば、大きな静脈瘤がある場合は、C2という様に分類します。
class
0 静脈瘤なし
1 クモの巣状あるいは網目状静脈瘤
2 大きな静脈瘤
3 浮腫あり
4 皮膚病変(脂肪硬化、色素沈着、湿疹)
5 皮膚病変と潰瘍の既往
6 皮膚病変と潰瘍(活動性)
これはCEAP分類といわれるもので、0が最も軽く、6が最も重症です。
C:Clinical signs
E:Etiologic classification
A:Anatomic distribution
P: Pathophysiologic dysfunction
深部静脈血栓症について
静脈瘤の原因の一つに深部静脈血栓症があります。
これは、深部静脈という奥の静脈に血栓ができる病気です。この病気には血栓性素因といって血が固まりやすい体質の方や、ストロイド、ホルモン剤や抗がん剤、骨粗鬆症の薬であるSERM(エビスタ)などを内服している方がかかりやすくなります。
また静脈瘤があると血栓症になりやすいことが知られています。
深部静脈に血栓ができて、はがれて肺に飛んでいくと肺塞栓(いわゆるエコノミー症候群)になります。
静脈瘤のレーザー治療後の深部静脈血栓症の頻度は0.3-0.5%程度と報告されています。
治療後に長時間じっと同じ姿勢で座っていたりすると血栓症を起こしやすくなります。
よく動いて足の血流を良くすることが大切です。
治療する際もできるだけ治療時間は短く確実に、また深部静脈の内膜の損傷を傷つけないような注意が必要です。
麻酔方法も大切で治療直後より動けるよう局所麻酔だけで治療することが重要です。
全身麻酔をかけると治療が終了しても麻酔がさめるまでしばらく動けないことがあり、深部静脈血栓症のリスクがあがるためできる限り使用しないことが望ましいと思います。
下肢静脈瘤のレーザー治療に関する学会発表
2003年
下肢静脈瘤に対する新しい治療法-エンドレーザー法の検討
日本初の下肢静脈瘤に対する血管内レーザー治療であるエンドレーザー法の報告です。100%の成功率でした。この報告によって日本のレーザー治療の第1歩が踏み出されました。
小田勝志 松本康久 前田博教 大森義信 笹栗志朗
第43回 脈管学会総会(東京)2002.11.7-9
下肢静脈瘤に対するエンドレーザー法の経験
小田勝志 松本康久 前田博教 大森義信 笹栗志朗
第31回日本血管外科学会総会 (金沢)2003.7.11
下肢静脈瘤に対する新しい低侵襲治療-エンドレーザー法の経験
小田勝志 松本康久 前田博教 笹栗志朗
第 回日本心臓血管外科学会総会 (札幌)2003.5 16
2004年
下肢静脈瘤に対するEndovenous Laser Treatment前後の凝固線溶系の検討
静脈瘤の治療後にはストリッピング手術、エンドレーザー法とも凝固線溶系が亢進することを報告しています。下肢静脈瘤の治療後には深部静脈血栓症の予防が大切です。
小田勝志 松本康久 前田博教 笹栗志朗
第24回日本静脈学会 (三重)2004.6.7
下肢静脈瘤に対するEndovenous Laser Treatment前後の静脈機能の評価
エンドレーザー法の治療効果は静脈の機能からみると従来のストリッピング手術と比べてもほぼ同等であることを報告しています。
小田勝志 松本康久 前田博教 笹栗志朗
第24回日本静脈学会 (三重)2004.6.7
下肢静脈瘤に対するEVLT(Endovenous Laser Treatment)
小田勝志 松本康久 前田博教 笹栗志朗
第24回日本静脈学会シンポジウム (三重)2004.6.8
小田勝志 松本康久 前田博教 大森義信 笹栗志朗
小伏在静脈に対するEVLT(Endovenous Laser Treatment)の検討
日本初の小伏在静脈(足の裏の静脈)に対するエンドレーザー法の報告です。成功率は93.8%でした。 閉塞できなかった症例には再度エンドレーザー法を行い、閉塞しています。
小田勝志 松本康久 笹栗志朗
第45回日本脈管学会総会(札幌) 2004.10.28
論文
エンドレーザー法を用いた下肢静脈瘤に対する新しい低侵襲手術の経験
脈管学 2003 43:27-31
小田勝志 松本康久 笹栗志朗
下肢静脈瘤の新しい低侵襲的治療:エンドレーザー法の現況と将来性
Vascular Disease and Therapies Update, 2003,10:1-3.
小田勝志 松本康久 前田博教ら
半導体レーザーを用いた下肢静脈瘤に対する新しい手術の経験
小田勝志 松本康久 前田博教ら
脈管学2003, 43: 775-779
半導体レーザーを用いた下肢静脈瘤の新しい低侵襲血管内治療法
小田勝志 松本康久 前田博教ら
静脈学 2004, 15:67-73
エンドレーザー法を用いた新しい下肢静脈瘤手術-超音波ガイド下麻酔の有用性―
冷却TLA麻酔についての論文です。超音波ガイド下TLA麻酔を開発することに よりエンドレーザー治療は全く痛みに心配がなくなりました。
松本 康久 小田勝志 前田 博教ら
手術 2004, 58:251-256
一次性下肢静脈瘤
松本 康久 小田勝志 笹栗志朗
臨床外科 2004
下肢静脈瘤に対するEVLT(Endovenous Laser Treatment)を用いたday surgery
本当の意味でのday surgeryに最も適しているのはエンドレーザー治療です。
小田勝志 松本康久 笹栗志朗
脈管学会
小伏在静脈に対するEVLT(Endovenous Laser Treatment)の検討
小伏在静脈(足の裏側)に対してもエンドレーザー法は有効なことを日本で初めて報告しました。16例中15例に有効でした。
小田勝志 松本康久 笹栗志朗
2003年
松本康久、小田勝志、半田武巳、前田博教、大森義信、笹栗志朗:局麻下内視鏡的筋膜下交通枝切離術および血管内レーザー治療にて治癒した皮膚潰瘍を伴った下肢静脈瘤の1例、第17回四国内視鏡外科研究会、(松山)2003.2.15
松本康久、小田勝志、半田武巳、前田博教、大森義信、笹栗志朗:皮膚病変を伴う下肢静脈瘤に対する内視鏡手術および血管内レーザー治療の手技と成績、第41回日本皮膚科学会高知地方会例会・第21回総会、特別発言(高知)2003.2.22
松本康久、小田勝志、前田博教、大森義信、笹栗志朗:SEPSの適応に関する我々の見解 -局麻下SEPSによる適応拡大の可能性-、第23回日本静脈学会総会、コンセンサスミーティング(東京)2003.4.10
松本康久、小田勝志、前田博教、大森義信、笹栗志朗:半導体レーザーを用いたEndovenous laser therapy -本幹硬化療法としての意義-、第13回下肢静脈瘤硬化療法研究会、(東京)2003.4.11
松本康久、小田勝志、半田武巳、前田博教、大森義信、笹栗志朗:一次性伏在型下肢静脈瘤に対するEVLT(Endovenous laser therapy)による新しい低侵襲手術の検討、第103回日本外科学会総会、(札幌)2003.6.4
松本康久、小田勝志、前田博教、福冨 敬、笹栗志朗:局所麻酔下内視鏡的筋膜下交通枝切離術を行う際の麻酔法の工夫、第6回高知内視鏡外科フォーラム、(高知)2003.6.28
松本康久、小田勝志、半田武巳、前田博教、大森義信、笹栗志朗:慢性静脈不全症に対する局所麻酔下内視鏡的筋膜下穿通枝切離術 -全身麻酔下施行例との比較検討-、第31回日本血管外科学会総会、(金沢)2003.7.11
松本康久、小田勝志、前田博教、笹栗志朗:Endovenous laser treatment(EVLT)を用いた新しい下肢静脈瘤手術 -当科における本治療の現況-、第65回日本臨床外科学会総会、パネルディスカッション(福岡)2003.11.13
2004年
松本康久:一般演題座長:第2回内視鏡下静脈疾患治療研究会(岡山)2003.12.3
松本康久、小田勝志、笹栗志朗:当科におけるSEPS有効症例の検討、第2回内視鏡下静脈疾患治療研究会、(岡山)2003.12.3
松本康久、小田勝志、笹栗志朗:日帰り手術を可能とする局所麻酔下内視鏡的筋膜下穿通枝切離術、第16回日本内視鏡学会総会、(岡山)2003.12.5
松本康久:APG、無侵襲診断法セミナー(実技講習および指導)、(高知)2004.2.21
松本康久、小田勝志、笹栗志朗:当科における伏在型下肢静脈瘤に対する局所麻酔下低侵襲治療の実際-血管内レーザー治療と局麻下内視鏡手術-、第104回日本外科学会総会、一般ビデオ(大阪)2004.4.9
松本康久、小田勝志、笹栗志朗:一次性下肢静脈瘤に対する超音波ガイドTLA麻酔で行う局所麻酔下ストリッピング手術、第32回日本血管外科学会総会、ビデオ討論(東京)2004.5.13
松本康久、小田勝志、笹栗志朗:1次性伏在型下肢静脈瘤に対する我々の治療戦略─EVLT(Endovenous laser treatment)や局麻下内視鏡的筋膜下穿通枝切離術の導入─、第24回日本静脈学会総会、パネルディスカッション(三重)2004.6.3
松本康久、小田勝志、笹栗志朗:下肢静脈瘤に対する超音波ガイド下TLA麻酔で行う局麻下ストリッピング手術、第24回日本静脈学会総会、一般ビデオ(三重)2004.6.4
松本康久、小田勝志、岡崎泰長、笹栗志朗:EVLT(Endovenous laser treatment) -本幹硬化を確実に行うために-、第14回下肢静脈瘤硬化療法研究会(三重)2004.6.4
松本康久、小田勝志、岡崎泰長、笹栗志朗:SEPS(内視鏡的筋膜下穿通枝切離術)の有効例の検討 ーどんな下肢静脈疾患にSEPSは必要かー、第7回高知内視鏡外科フォーラム、(高知)2003.6.1
松本康久、小田勝志、岡崎泰長、笹栗志朗:下肢静脈瘤に対する局麻下ストリッピング術の検討、第18回日本臨床外科学会高知県支部会、(高知)2004.7.3
松本康久、小田勝志、岡崎泰長、笹栗志朗:術後すぐに歩ける下肢静脈瘤手術ー局所麻酔下ストリッピング術とEndolaser治療ー、第57回高知県医師会医学会、(高知)2004.8.21
松本康久、小田勝志、岡崎泰長、笹栗志朗:下肢静脈瘤手術におけるエコーガイド下冷却TLA麻酔法の有用性の検討:第45回日本脈管学会総会、ワークショップ、(札幌)2004.10.28
西森康悦、松本康久、小田勝志、包国由子、三谷哲也、土居忠文、小倉克己、笹栗志朗、杉浦哲郎:Air Plethysmography(APG)を用いた高位結紮切離併用エンドレーザー術の評価、第24回血管無侵襲診断法研究会、(札幌)2004.10.30
論文
小田勝志 : 高齢者下肢静脈瘤に対するTLA局麻下血管内レーザー治療の経験.
高知県医師会医学会雑誌, 21 : 115-123, 2016.
学会発表
小田勝志 : 高齢者下肢静脈瘤に対するTLA局麻下血管内レーザー治療の経験. 第36回日本静脈学会総会, 弘前, 2016. 06. 23.
小田勝志 : 第11回血管内焼灼術研修会.静脈瘤血管内焼灼術におけるエコーの実際. 第36回日本静脈学会総会, 弘前, 2016. 06. 24.
小田勝志 : TLA注入ポンプを用いた下肢静脈瘤血管内レーザー治療の経験. 第69回高知県医師会医学会, 高知, 2016. 8. 20.
小田勝志 : 血管内レーザー治療におけるMaurins Score を用いたDVTリスクファクターの検討. 第57回日本脈管学会総会, 奈良, 2016. 10. 13.
小田勝志:短・長軸同時描出T型エコーを用いた静脈穿刺法の血管内レーザー治療への応用 第37回日本静脈学会総会, 徳島, 2017. 06. 15.
論文
小田勝志 : TLA注入ポンプを用いた下肢静脈瘤血管内レーザー治療の経験.
高知県医師会医学会雑誌, 22 :,159-165, 2017.
学会発表
小田勝志 : 短・長軸同時描出T型エコーを用いた静脈穿刺法の血管内レーザー治療への応用第37回日本静脈学会総会, 徳島, 2017. 06. 15
小田勝志 : 鬱滞性皮膚炎を伴う下肢静脈瘤の日帰りレーザー治療
第70回高知県医師会医学会, 高知, 2017. 8. 19.
小田勝志 : 短・長軸同時描出T型エコーを用いた血管内レーザー治療
第58回日本脈管学会総会, 名古屋, 2017. 10. 19.
静脈瘤に関する海外の論文コーナー
簡単な要約とコメントを載せています。Endovenous laser treatment of saphenous vein reflux: long-term results.
伏在型下肢静脈瘤に対する静脈内レーザー治療の長期的成績
Min RJ, Khilnani N, Zimmet SE. J Vasc Interv Radiol. 2003 Aug;14(8):991-6
この論文では、コーネル大学のMin医師らが、下肢静脈瘤の静脈内レーザー治療の遠隔期成績について初めて報告しています。
その報告によると499肢の方にレーザー治療を行い初回成功率98.2%で2年後の閉塞維持率が93.4%%です。
最初の1年に再発しなければ長期的にみて再発の可能性が非常に低いことを強調しています。これは最初に血管閉塞がきちんと行われていると、血管の再疎通が低いことが伺われます。
レーザー治療の長期成績が良好であることが予想されています。深部静脈血栓など重篤な合併症は報告されていません。
Endovenous laser treatment of the lesser saphenous vein with a 940-nm diode laser: early results.
940nm半導体レーザーを用いた小伏在静脈由来下肢静脈瘤に対する静脈内レーザー治療の初期成績
Proebstle TM, Gul D, Kargl A, Knop J. Dermatol Surg. 2003 Apr;29(4):357-61
マインツ大学のProebstle医師らが、41肢33人の小伏在静脈に対して静脈内レーザー治療を行い、95%で有効であったと報告しています。
ストリッピング手術では多い神経障害の報告もなく、小伏在静脈への静脈内レーザー治療の有用性を示唆しています。
コメント:小伏在静脈に対する静脈内レーザ治療の成績についてはいろいろな意見が見られます。私の経験では小伏在静脈をレーザー治療する際には大伏在静脈より強い出力が必要です。出力が弱いと再疎通の原因となります。小伏在静脈でも十分な出力を与えると静脈は閉塞します。
Endovenous laser: a new minimally invasive method of treatment for varicose veins--preliminary observations using an 810 nm diode laser.
静脈内レーザー治療:810nmの半導体レーザーを用いた下肢静脈瘤に対する新しい低侵襲的治療法
Navarro L, Min RJ, Bone C. Dermatol Surg. 2001 Feb;27(2):117-22
ニューヨークのべスイスラエル病院のNavarro医師らが40肢のかたに静脈内からレーザー治療を行い、100%の初回閉塞率を報告して、下肢静脈瘤の静脈内レーザー治療が有用であることが広く知られるようになりました。
The first 1000 cases of Italian Endovenous-laser Working Group (IEWG). Rationale, and long-term outcomes for the 1999-2003 period
イタリアにおける初期1000例の静脈内レーザー治療の検討
Institute of Vascular Surgery and Angiology, University of Milan, Milan, Italy.
サマリー:イタリアでの静脈内レーザー治療の大規模研究の結果報告の論文です。
1999-2003年間に伏在型下肢静脈瘤1076肢に対してレーザー治療を行っています。治療に用いたレーザーは810-980nmの波長です。初期成功率は99%であり、3年後にも97%の閉塞率という治療成績です。
治療に対する患者さんの満足度は97%と高くなっています。また重篤な合併症はまったくなく、特に深部静脈血栓症は全くないことから治療の安全性が確認されたことより、静脈内レーザー治療は新しい静脈瘤治療の選択肢としてよい方法だと結論しています。
コメント:ヨーロッパからの大規模スタディの報告です。非常に治療成績がよいのが印象的です。これまでの報告を見てみると、初回の閉塞ができていると3年後も問題ないという傾向にあります。
また深部静脈血栓がまったくみられていないことから、レーザー治療は安全性が高いことが示唆されます。
Initial Experience in Endovenous Laser Ablation (EVLA) of Varicose Veins Due to Small Saphenous Vein Reflux.
小伏在静脈逆流由来の下肢静脈瘤に対する静脈内レーザー治療法
Leeds Vascular Institute, The General Infirmary at Leeds, Great George Street, Leeds, LS1 3EX, UK.
サマリー:小伏在静脈に対するこれまでの手術治療は非常に高い再発率(最高50%)が報告されています。この研究では静脈内レーザー治療が小伏在静脈の治療に対して有効であるかどうかについて検討しています。 小伏在静脈由来の65人 (68 肢)に対してレーザー治療 (810nm diode laser). を行っています。レーザーのエネルギー量は 1131J (IQR 928-1364)であり、 66.3 Joules/cm (IQR 54.2-71.6)でした。.全例に閉塞が得られており、 AVVSS は15.4 (IQR 11.8-19.7) から 4.6 (IQR 3.2-6.7)へと改善しています。痛み止めが必要としたのは平均3日 (23% の患者では痛み止めを必要としていません。) ほとんどの方がその日のうちに日常生活へ戻っています。皮膚の熱傷や深部静脈血栓は認めていません。 3人(4.4%) のかたが一過性に神経障害を経験しています。 98% (64/65) の患者が再度受けるとしたら、レーザー治療を受けたいといっています。
結論として、小伏在静脈瘤に対する静脈内レーザー治療の短期成績は有効であったが、今後の長期的検討が必要であるとしています。
コメント:小伏在由来の静脈瘤に対する静脈内レーザー治療の有用性についてはこれまで私たちもこれまでに報告してきました。
治療成績は良好であり、従来のストリッピング手術に比べて神経障害などの合併症が少なく、第一選択となる可能性もあります。患者様の満足度が高いのも特徴であり、長期成績の報告が待たれます。
J Vasc Surg.
2006 Jan;43(1):88-93.
Outcome of different endovenous laser wavelengths for great saphenous vein ablation.異なるレーザー波長が大伏在静脈の閉塞に与える影響について
Vein Institute of New Jersey, Morristown Memorial Hospital, Morristown, NJ 07960, USA.
サマリー:この研究では異なるレーザー波長が大伏在静脈の閉塞に影響を与えるかどうかについて検討しています。810nmと980nmの2種類のレーザーを用いてランダマイズドスタディを行っています。
レーザー治療を受けた伏在型静脈瘤の患者は72時間、1週間、3週間 4ヶ月の経過観察を受けています。皮下出血、患者の肉体的、精神的負担の具合、症状、合併症について比較検討しています。51人(女性38人 男性13人平均52.4 +/- 11.7才)を対象にしました。治療後72時間では両群に皮下出血、症状、合併症などに全く差を認めませんでした。1週間目には皮下出血のみが810nm群に多く認められました。その他では3週間目で810nmでかゆみが強かったことと、4ヶ月で980 nm群で痛みがより少なかったのと静脈瘤の残存が少ない傾向にありました。両群1例ずつ計2例の再疎通がありました。結論として810,980 nmとも良好な治療成績であり、重篤な合併症はみられませんでした。
コメント:臨床的に静脈瘤の治療に使用されるレーザー波長を比べた研究はほとんどありません。レーザーの波長についてはさまざまなものが報告されていますが、短期的にはどの波長を用いても良好な治療成績が報告されています。現在特にどの波長がいいかはわかっていません。810nmと980nmは2つの波長は最も多く使用されているレーザーの一つです。レーザーの波長のみならず照射方法もレーザーの治療成績に大きな影響を与えています。今後レーザー治療についてどの照射方法が最も効果的なのか、長期的な検討結果が待たれます。
Br J Surg. 2006 Jul;93(7):831-5.
Endovenous laser treatment for long saphenous vein incompetence. 大伏在静脈逆流に対する静脈内レーザー治療について
Department of Vascular and Endovascular Surgery, Belfast City Hospital, Lisburn Road, Belfast BT9 7AB, UK.
サマリー:静脈内レーザー治療は大伏在静脈逆流の治療に用いられる経皮的治療法のひとつです。この論文では、静脈内レーザー治療の安全性や効果について述べています。
136例(145肢)の大伏在逆流に対する静脈内レーザー治療を行っています。治療後1週間、3ヶ月、12ヶ月の時点で大伏在静脈の閉塞状況や症状の改善具合について検討しています。初回治療成功は
124/145肢(85.5%)でした。初回治療に失敗した理由として、カニューレがはいらなかった、ガイドワイヤーが通らなかった、患者が気分が悪くなったということが挙げられます。3ヵ月の時点で、105肢(89.7%)が完全閉塞し、9肢(7.7%)
が部分的に閉塞していました。12ヵ月の時点では63肢(76%)が完全閉塞しており15肢(18%)が部分的に閉塞していました。この時点で73肢(88%)は治療成績に満足していましたが、26肢(31%)は再発静脈瘤を認めました。これらのうち更に治療を行ったものは5例でした。合併症としては、伏在神経障害1例、皮膚の熱傷1例でした。結論として静脈内レーザー治療の安全性は高く、外来で局所麻酔下に合併症の頻度が低く施行できるものであるとしています。コメント:静脈内レーザー治療を行う際に、静脈内へカニューレを挿入することが難しいことがよくあります。静脈の大きさや走行は一人ひとり異なっているため、数多くの経験が必要です。 またエコーに習熟していないと、伏在静脈以外の深部静脈などをレーザー照射してしまう危険性があります。レーザー治療した部位が全長にわたって完全閉塞していない場合もありますが、静脈瘤の症状改善効果はあります。現時点ではどのタイプのレーザーを用いても短期的な観点からは、治療成績に大きな差はありません。長期的に高い閉塞率を保つことがレーザー治療の場合最も重要な点です。今後最適の波長、照射方法についての研究が待たれます。
Rozhl Chir. 2007 Feb;86(2):78-84.
Endovenous laser photocoagulation of the insufficient saphenous vein in experiment
伏在型静脈瘤に対する静脈内レーザー治療の実験的検討サマリー:チェコの論文のため、英語サマリーのみです。下肢静脈瘤に対する静脈内レーザー治療について、ここ数年世界中から従来の手術に匹敵する臨床成績が報告されています。それにもかかわらず、レーザー機器や出力、手技などについて多くの意見がみられます。この研究の目的は、実験的なレベルで最大の静脈収縮を得るためにどのような条件が必要かを検討することです。ストリッピング手術で摘出した大伏在静脈に対して、980nmの半導体レーザーを用いてレーザー照射を行って検討しました。279本の静脈に対して5W, 8W, 10W,12W, 15Wのそれぞれの条件でレーザー照射を行い静脈穿孔が最も少なくかつ最大の収縮効果が得られる条件について、検討しています。静脈内を血液で満たしたもの群(139例)、静脈内が空のもの(140例)の2群についてそれぞれレーザー照射を行い、照射終了後に静脈を縦切開し、レーザー照射した部分としていない部分について、内径を測定しています。最大の収縮効果が低ー中出力 (8 to 12 W)で得られました。正常の静脈を
100%とすると収縮の効果は以下のとおりです。 50% (出力 5W), 45% (出力 8W), 40% (出力10W), 45% (出力12W) and 58.6% (出力 15W)
であり、これらの数字は統計学的に有意差を認めています。
15W の高出力では、血管の穿孔と炭素化がより高頻度におこり、総エネルギー量は少なくなっていましたが、有意な差ではありませんでした。
コメント:これまでの報告は臨床的な報告が多く、実際のレーザー照射の条件について詳しく検討したものはありません。私もこの研究と同じような実験を繰り返して、現在の条件を決めたのですが、今後もいろいろなパラメターの検討は必要と考えています。この論文で一番重要なことは、比較的低出力でゆっくりと牽引することがいい治療成績につながることを示唆している点だと思います。
毎秒0.2mm程度で牽引すれば低出力でも十分な照射を行えます。もう一点重要なことは収縮率が最大6割程度である点です。静脈瘤になるかたの血管は大きいので、この収縮率では不十分な場合があります。結論として静脈の収縮はレーザーの出力によっており、実験の結果として、8-12W低ー中出力と(0.2-2mm/s)のゆっくりとしたスピードでファイバーを牽引することにより、十分なエネルギーを静脈に与え、良好な遠隔成績につながるとしています。
Dermatol Surg. 2006 Dec;32(12):1453-7.
Incompetent great saphenous veins treated with endovenous 1,320-nm laser: results for 71 legs and morphologic evolvement study.
Department of Dermatology, Chang Gung Memorial Hospital, Taipei, Taiwan.
下肢静脈瘤に対する静脈内レーザー治療はさまざまな波長を用いて良好な結果が報告されています。レーザー治療を受けた血管がどのようになっていくかについてはほとんど報告されていません。この研究では1320nmの波長を用いた静脈内レーザー治療の有用性と形態的変化を検討することを目的としました。1320nmのレーザーを用いた静脈内レーザー治療50例について検討を加えました。静脈径をエコーを用いて測定しました。71肢のレーザー治療について平均13.1ヵ月の経過観察 を行いました。経過中に94% (67/71肢)の閉塞が得られました。SFJより3cm下方での静脈径は治療後2日目で81%、1ヶ月で75%3ヶ月48%、5カ月39%でした。治療した静脈径が繊維化してひも状になったと考えられる(静脈径が2.5 mm以下)になるのは平均5.8カ月でした。1320nmクールタッチを用いた静脈内レーザー治療の成績は優れており、静脈の収縮は遠隔期成績の良好なことを予想させます。
大伏在静脈不全に対する1320nmを用いた静脈内レーザー治療:71肢の結果と形態学的検討
Yang CH,Chou HS,Lo YF.
コメント:1320nm に関する治療成績の報告はまだ多くありません。この論文で見られる静脈の収縮度は他の波長のレーザーと同程度の考えられ、特に優れたものではありません。少し気になるところは大伏在静脈の閉塞率が94%と低いことです。DrMinらは半導体レーザーで100%の閉塞率を報告しています。理想的には100%の閉塞率をもち、完全閉塞する治療法が望ましいと思います。今後の検討が待たれます。
J Endovasc Ther. 2006 Apr;13(2):244-8.
Endovenous ablation of incompetent saphenous veins: a large single-center experience.
Ravi R, Rodriguez-Lopez JA, Trayler EA, Barrett Department of Cardiovascular and Endovascular Surgery, Arizona Heart Institute and Arizona Heart Hospital, Phoenix, Arizona 85006, USA.大伏在静脈不全に対する静脈閉塞治療:単一施設での大規模治療経験
下肢静脈瘤に対する静脈内レーザーまたはラジオ波による閉塞治療の3年以上の遠隔成績を検討することを目的としています。2002年2月より2005年8月の間に, 981 人 (女性770人 ;平均 51才:15-90才) の患者に対してTLA麻酔下に腰椎麻酔や静脈麻酔による鎮静を行わずに静脈閉塞治療を行っています。1250肢の内訳は大伏在静脈1149本、小伏在静脈 101 本でした。 静脈内レーザー治療を行ったものが、大伏在静脈 990本 小伏在静脈 101本、ラジオ波による閉塞治療159本でした。超音波検査を用いて2週間内以内に静脈の閉塞、静脈壁の厚さ、深部静脈内への血栓の進展の有無について評価を行いました。最初の200例について臨床的評価と超音波検査を6ヵ月、12ヵ月その後は一年ごとに評価を行った。1149本中39 (3.4%)の再発がみられました。レーザー治療が33本(3.3%)、ラジオ波が6本(3.8%)が治療が不十分だと判断されました。小伏在静脈は101例中9例(9.0%)のレーザー治療後の再発が見られました。全体としてレーザー治療、ラジオ波とも治療後の経過は良好でした。一例の肥満の患者で術後に肺梗塞をおこしていました。
レーザー治療とラジオ波治療の間に有効性や合併症について統計学的な違いはありませんでした。143例で平均3年( 30- 42ヵ月)後にソケイ部での血管新生はみとめられませんでした。
結論として、静脈内レーザー治療とラジオ波閉塞治療はどちらとも有効でした。合併症の発生が低いことは、静脈麻酔による鎮静を使用せずにTLAのみで治療を行っていることにもに関係している可能性があります。
コメント:この論文の特徴は心臓血管外科からの報告です。海外では皮膚科などがレーザー治療を行っているところが多いようです。この論文ではTLA麻酔により、鎮静剤を全く使用せずにレーザー治療を行っています。鎮静剤を使用しないことで治療中の合併症を最小限に抑えることが可能となっています。小伏在静脈の治療成績が大伏在静脈に比べて悪いことはこれまでの報告と同じ傾向です。肺塞栓の例は高度肥満例(158kg)で下肢に潰瘍をもっているかたでした。深部静脈血栓症はなく治療との因果関係は明らかではありませんでした。手術や硬化療法より深部静脈血栓症や肺塞栓の頻度が特に高いとはいえないようです。
J Vasc Surg. 2007 Jun 26
Randomized trial comparing endovenous laser ablation of the great saphenous vein with high ligation and stripping in patients with varicose veins: Short-term results.
大伏在静脈に対する静脈内レーザー治療とストリッピング手術の比較検討:短期成績の比較
Danish Vein Centre and Surgical Clinic.
背景: 大伏在静脈に対する静脈内レーザー治療(EVL) (GSV)はストリッピング手術に比べて術後の合併症が少なく、仕事を出来ない期間が短いと考えられていますが、TLA麻酔下に外来治療を行ったレーザー治療とストリッピング手術を比較した研究はこれまで行われていませんでした。
方法:大伏在静脈由来の下肢静脈瘤の患者を静脈内レーザー治療 (980 nm) またはストリッピング手術にランダムに割り振りました。ミニ瘤切除も同時に行われています。治療前と治療後12日目、1、3,6ヶ月後に診察を行いました。病欠の時間 正常の活動まで戻れる時間、痛みのスコア、痛み止めの使用量、アバディーンスコア、フォーム36、VCSS、合併症の頻度を検討しました。治療にかかる費用(賃金の損失、装備も含めて)も計算しました。費用はデンマークでの標準的なストリッピング手術とレーザー治療の費用と標準給与を用いて計算しています。
結果: 121 人 (137肢)について6ヶ月間経過観察いたしました。ストリッピング手術とレーザー治療のどちらも患者についてかたよりはありませんでした。2例のストリッピング手術が血管を取り除くことができず、3例のレーザー治療で静脈の再疎通が認められました。 3ヶ月目にはどちらのグループでも同程度のQOL改善が得られました。重篤な合併症は創部感染の一例のみで、抗生物質にて完全に治癒しました。ストリッピング手術とレーザー治療を比べると、日常活動 (7.7 vs 6.9 日)と 仕事に復帰するまで(7.6 vs 7.0 日)であり有意な差はみとめませんでした。術後の痛みと皮下出血に関してはストリッピング手術で高い傾向にありましたが、鎮痛剤の使用量については両群間に有意な差をみとめませんでした。治療にかかるコストがストリッピング手術は総額3084ユーロ ($3948 US) でレーザー治療は3396ユーロ ($4347 US)でした。術後の痛みと皮下出血がストリッピング術で多いほかはストリッピング手術、レーザー治療とも差を認めませんでした。どちらの方法とも静脈逆流を止める方法としては安全で有用でした。今後長期的な検討、特に再発について検討が望まれます。
コメント:下肢静脈瘤のストリッピング手術とレーザー治療について短期的な治療成績を比較検討した数少ない論文です。
どちらの治療も安全性は高いものですが、痛みや皮下出血、神経障害、傷の合併症がないことなどレーザー治療のほうがよりクオリティの高い治療法と思われます。また治療を受ける際の精神的な不安もレーザー治療のほうが明らかにすくないでしょう。
デンマークでは仕事をしな期間でも給与を得ることができるため、仕事を離れる期間が長くなるという傾向にはあるようです。このことから仕事から離れる期間が差がなくなっている可能性もあります。
今後長期的な観点から再発率の違いなどについて検討が必要と思われます。
J Vasc Surg. 2006 Nov;44(5):1051-4.
Residual varicose veins below the knee after varicose vein surgery are not related to incompetent perforating veins.
膝下の再発下肢静脈瘤は交通枝の不全に無関係
Department of Dermatology, Laurentius Hospital, Roermond, The Netherlands. P.vanNeer@lzr.nl
膝上に限局した短いストリッピング手術後の下肢静脈瘤の再発(目に見えるものや超音波で診断されるもの)について、不全交通枝の果たす役割について検討しました。方法:連続した下肢静脈瘤59例(74肢)について術前に臨床的検査とカラードプラー検査を行い、治療後6ヶ月目に再検査を行いました。ストリッピング手術はソケイ部から膝直下間で行いました。瘤切除は同時に行っていません。膝下の大伏在静脈の3分枝と術前よりあった不全交通枝と静脈瘤の関係について統計学的検討を行いました。 結果:治療前には62肢(70% )で静脈瘤が確認されました。
手術後には12肢(16% )に静脈瘤が確認されました。3分枝の逆流があったものは以下の割合でした。前枝:治療前 34 (49%) 治療後31 (44%)。本幹:治療前59 (79%)、治療後62 (91%)。 後枝:治療前49 (67%) 治療後46 (63%)。治療後の残存した大伏在静脈3本の逆流と治療前の不全交通枝の逆流には統計学的有意差は認められませんでした。また、術後の目に見える静脈瘤と術前の不全交通枝の間にも統計学的な有意差を認めませんでした
。結論:この研究では、限局性ストリッピング手術では手術後に全ての膝下の分枝に逆流が存在しており、6ヶ月後には20% の静脈瘤が再発します。この再発静脈瘤には術前の不全交通枝の存在は関係ありません。
コメント:これは最近よく行われている、限局性ストリッピング手術の方法では静脈瘤の再発が20%程度という結果です。再発に不全交通枝が関係していないのは意外な結論です。静脈逆流が膝下まである場合は限局的ストリッピング手術だけでは治療が不十分であり、膝下の治療を行うほうがよりいい結果が得られるのでないかと思われます。
Br J Surg. 2007 Jun;94(6):722-5
Fate and clinical significance of saphenofemoral junction tributaries following endovenous laser ablation of great saphenous vein.
.大伏在静脈に対する静脈内レーザー治療後の伏在静脈接合部の分枝の運命と臨床的重要性について
Leeds Vascular Institute, General Infirmary at Leeds, Great George Street, Leeds LS1 3EX, UK.
背景:外科手術と違って、静脈内レーザー治療では、ソケイ部の分枝を遮断しません。この前向き研究では、この分枝の運命と臨床的重要性について、検討を加えました。方法:下肢静脈瘤の81肢(70人)のについて、静脈内レーザー治療後12ヶ月後に超音波検査を行いました。伏在大腿静脈接合部の逆流、分枝の開存率、残存あるいは再発静脈瘤についてアバディーンスコアを術前の値と比較しました。結果:大伏在静脈は2例で逆流を伴わずに開存していました。伏在大腿静脈接合部には81肢全例で逆流を認めなかったが、48肢(59% )で一本以上の分枝が逆流を伴わずに開存していました。1例でソケイ部の血管新生を認めました。 32肢(40 %) では大伏在静脈が上端まで閉塞し、分枝を認めることができませんでした。AVVSS は分枝がある群とない群でレーザー治療前後に違いがありませんでした。分枝あり:レーザー治療前13.9 (7.6-19.2) レーザー治療後 2.9 (0.6-4.8) 分枝なし:レーザー治療前14.9 (9.2-20.2) レーザー治療後 3.1 (0.8-5.1) 。静脈瘤の再発は一肢のみで、大腿中央部の不全交通枝によるものでした。
結論: 残存する伏在静脈大腿静脈接合部の逆流はレーザー治療一年後の臨床的結果に悪い影響を及ぼしていないと考えられます。
コメント:レーザー治療とストリッピング手術との手技上の最大の違いは、伏在静脈大腿静脈接合部の分枝の取り扱いです。レーザー治療の場合は、分枝を残しますが、ストリッピング手術ではとってしまいます。正常な静脈まで全て取ってしまうと表在に途中の不全交通枝へつながることがあるので、これが将来の再発につながるのではないかとも考えられます。この問題は大きな問題ですので、今後十分する検討する必要があると思います。
J Vasc Surg. 2006 Dec;44(6):1279-84; discussion 1284.
Neovascularization: an "innocent bystander" in recurrent varicose veins.
血管新生は静脈瘤の再発には無関係
Egan B, Donnelly M, Bresnihan M, Tierney S, Feeley M.
Department of Vascular Surgery, The Adelaide and Meath Hospital incorporating the National Children's Hospital, Tallaght, Dublin, Ireland.
下肢静脈瘤は最大60%の患者で治療後に再発がみられます。さまざまな治療法における技術的な要素が問題とされていますが、血管新生のような生体側の要素が最近では強調されています。この研究の目的は静脈瘤の再発原因として、技術的または生体側要素がどれだけ関係しているかを調べることにあります。
方法:1995年から2005年の間に大学病院で治療を受けた再発静脈瘤500例について超音波検査と手術所見を比較検討しました。以前に伏在大腿静脈接合部の手術を受けた足のみを対象としています。全ての足について大腿部とソケイ部の大伏在静脈の超音波検査を行い、血管新生を検索しました。また小伏在静脈や不全交通枝についても検索しました。すべての手術は血管外科を専門とする医師の監督下に行われています。結果:初回の大伏在静脈に対する治療が不十分だったものが83.2% でした。17.4% で全く正常の大伏在静脈が認められました。大腿部の伏在静脈が44.2%に見られ、37.6% が伏在静脈の断端の逆流と一つ以上の分枝の逆流をみとめました。16% は大腿部の大伏在静脈の逆流と正常の分枝を認めました。大伏在静脈以外の逆流は25%に認めました。血管新生はエコーで41例 (8.2%)に認めました。そのうち27例では手術で伏在静脈の段端の逆流とその分枝の逆流が原因であることが判明しました。残る14例 (2.8%) で大腿部の大伏在静脈逆流を認めました。結論:これまでの報告に反して、血管新生は再発静脈瘤の原因としては比較的少ない割合を占めていました。エコーで血管新生と判定したものは全て大伏在静脈分枝の逆流や大腿部の大伏在静脈逆流あるいはその両方を合併していました。再発静脈瘤の原因としては初回手術が不十分あるいは静脈瘤自体の進行が考えられ、血管新生だけがその原因となるものではありません。
コメント:血管新生についてはさまざまな意見があります。私のところへも再発された方が治療によく来られるのですが、その多くは初回治療が不十分なことが挙げられます。適切な初回治療は大変重要です。
ストリッピング手術についての文献
Randomized clinical trial comparing bipolar coagulating and standard great saphenous stripping for symptomatic varicose veins.
下肢静脈瘤に対するバイポーラー凝固法と標準的ストリッピング手術の臨床比較試験
Lorenz D,Gabel W,Redtenbacher M,Weissenhofer W,Minzlaff M,Stengel D.
DLM Medizin Projectmanagement, Fachbach, Germany.
サマリー 下肢静脈瘤のストリッピング手術後の大腿部の血腫は最も典型的な合併症のひとつですが、新しいタイプのバイポーラー型ストリッパー(静脈抜去装置:EVS)を用いて血腫が減少するかどうかを検討しています。
方法 3つの血管外科センターでランダマイズドコントロールスタディを行っています。 99 人のかたが新しい治療法であるEVS を101 人のかたが通常のストリッピング手術を受けました。治療直後の結果として、安静時の大腿部の痛みと階段を登る運動負荷検査を比較検討しています。血腫はエコーにて評価しています。最終的なエンドポイントとしては、術後の圧迫期間、病気で仕事を離れた期間、 QOL(CTVIQとSF-36を用いて)の評価を行っています。
結果:術後24時間での痛みの評価(視覚スケール)はEVS群は 1.6、通常の手術群は3.3と有意に改善していました。同様に運動負荷でもEVS群平均 3.3 、通常群 5.5 と有意に改善していました。EVS群では血腫は認めませんが、通常群では74例(74%)に血腫を認めています。EVS群では術後の圧迫期間の減少、病気で仕事を離れる期間、QOLとも改善しています。
結論:EVSは安全でストリッピング手術後の痛みの原因である血腫を減らせる方法であると結論しています。
コメント:静脈瘤のストリッピング術後の大腿部の血腫は痛みの原因として最も多いものです。この論文にもあるようにこれまでのストリッピング手術では7割以上に発生している合併症です。
EVSはストリッピング術の合併症を減らすことが出来る可能性があり、今後の進展が待たれます。
Neovascularisation as a cause of recurrence after varicose veins operation
静脈瘤手術後の再発の原因としての血管新生
Kaspar S, Hadzi Nikolov D, Danek T,Maixner R,Havlicek K.Ustav zdravotnickych studii Univerzity Pardubice.
この論文では下肢静脈瘤治療後の再発について、特に大伏在静脈、大腿静脈接合部(SFJ)に関する再発の機序と予防法について検討しています。下肢静脈瘤根治術後再発の404人(573件)について、
不全交通枝からの逆流による再発以外に最も多かった再発原因が大伏在静脈の逆流によるもの(86%),続いて小伏在静脈の逆流によるもの(14%)でした。大伏在または小伏在静脈と深部静脈接合部に逆流のある30例(35肢)を選んで検討を加えています。
.12例(14肢)のかたのVEGF (Vascular endothelial growth factor)とprotein S-100を検査した結果、14肢中11肢(79%)全体の31.42%が血管新生による影響が強いと考えられました。結論として不完全な初回治療が再発の原因として最も多いが、経験をつんだ外科医が完璧な手術をしても再発を防ぐことは困難です。血管新生は再発のある程度の割合を占めていて、手術で伏在静脈を完全に切り離しても再発の可能性は残ります。ラジオ波やレーザー治療などの血管内治療法は接合部を切らないため、血管新生による再発を防げる可能性があると思われます。
コメント:下肢静脈瘤治療後の再発はさまざまな形でおこります。残念ながら現時点で全く再発なく治療する方法はありません。ストリッピング手術は静脈を抜き取るため治療成績はいいのですが、かなりの再発率が報告されています。再発の最も多い原因は、初回手術が不確実であることですが、ストリッピング手術で血管を完全に取ってしまっても血管新生(新たに血管ができること)による再発が起こりうることをこの論文は示しています。レーザー治療などソケイ部を切開をしない治療が登場したことにより、血管新生による再発が減少することが期待されます。レーザー治療により本当に血管新生が防げるかどうかについては今後の重要な検討課題です。