下肢静脈瘤のレーザー治療とはどんな治療法?
レーザー治療は、これまでの静脈瘤の主な治療法であるストリッピング手術(ストリッピングとは抜き取るという意味です。)という手術とは全く異なった種類の治療法です。
①②静脈瘤の原因となっている逆流のある静脈の中へ大きさが1mmにも満たない光ファイバーを入れて
③④先端からでるレーザー光によって逆流のある静脈を閉塞する方法です。
この図からも分かるように、切開することもなく、静脈を摘出する必要がない治療法です。
手術というより、カテーテル治療という内科的な方法です。治療自体は20-30分もあれば終了します。
全身麻酔のいらないレーザー治療
通常のストリッピング手術では、全身麻酔や腰椎麻酔などの麻酔が必要ですが、レーザー治療は局所麻酔のみで治療可能で、治療中にもほとんど痛みを感じることはありません。
従来の手術方法に比べて安全性、快適性が格段に向上した治療法です.
レーザー治療のメリットとして
- 全身麻酔をしないので手術に比べ体への負担が少ない
- 治療の危険性が低い(全身麻酔をしない場合)
- 治療に対する恐怖感が少ない
- 治療中や治療後の痛みが手術に比べて圧倒的に少ない
- 日常生活への復帰が早い
- 傷がないので美容的効果が高い
- 入浴などの制限がない
- 治療後の弾性ストッキングが必要ない(当クリニックでの治療後)など
多くの利点が挙げられます。
レーザー治療は治療直後から痛みもなくどんどん歩けますので、お仕事や日常生活にすぐに戻れることが、従来の手術とは全く異なっています。
一方、起こりうる問題点としては
- 術後の痛み、ツッパリ感
- 皮下出血
- 血栓性静脈炎
- 深部静脈血栓症
- 肺塞栓症
- 血管の再疎通
などが挙げられます。
以前は術後の痛み、ツッパリ感 皮下出血という合併症がよく見られましたが、現在の1470nmレーザー治療ではほとんど見られなくなり、より快適な治療となっています。
またレーザー治療後の静脈の再疎通も低くなっています。
治療に習熟した施設では、重篤な合併症の発生頻度は極めて低く、従来の手術に比べて安全性が高いものといえます。一方、レーザー治療が広まるにつれて診断治療に未熟な施設も多くなっているので、治療を受ける際には注意が必要です。
レーザー治療の原理
レーザーを血管壁に照射すると、熱エネルギーにより血管壁の収縮と肥厚が起こり、静脈内腔が狭くなったところへさらに二次的な血栓が付着して閉塞するものと考えられます。
レーザー治療の成績をよくするために重要な点は、血管壁全周の熱変性をいかに少ないエネルギーで効率よくおこすかということになります。
血管の内膜障害は硬化療法という注射治療でもおこりますが、レーザー治療は血管の内膜にとどまらず、血管壁の熱変性がより速く強くおきることがその特徴といえます。
また波長によりレーザーが吸収される対象物質が異なり、1470nmの波長では、血液には吸収されにくく、水に対する吸収率が高くなります。
その結果静脈の壁内の水分に吸収され静脈壁に強い熱変性が起きます。
現時点では1470nmの波長が最も効果的に静脈閉塞を起こすことができる波長であると考えられています。
現在は1940nmの波長も開発が進んでおり、今後の発展が期待されます。
レーザー治療のアニメーションビデオ
ELVeSレーザーによる下肢静脈瘤治療をわかりやすく説明したビデオです。
レーザーファイバーの種類
静脈内でレーザー照射を行うためには、先端からレーザーを照射するレーザーファイバーが必要です。現在は2リングと1リングのファイバーがあります。ファイバーのサイズもノーマルとスリムがありそれぞれに優れた点があります。
スリムは静脈径の細いときや再発例、ピンポイントで焼灼したいときに特に有効です。ノーマルは瘤の大きなときや治療時間が短くなるという特徴があります。
当クリニックでは、患者様の静脈瘤の状態に合わせて適切なファイバーを選んで使用しています。
レーザー治療の麻酔法について
レーザー治療を行う際には安全性の根幹にかかわる麻酔法の選択は極めて重要です。世界的にはTLAという局所麻酔だけで行うことが標準的な術式として認められています。
TLA(Tamescent Local Anesthesia)法
リドカインをいう局所麻酔剤を生理食塩水で希釈して使用する方法です。
当クリニックでは現在0.05%の濃度に希釈して使用しています。
もともと脂肪吸引の麻酔法として開発された方法であり、現在では脂肪吸引のほかに下肢静脈瘤の治療の際に広く使用されています。
皮下の静脈瘤の手術には安全性が高く大変いい麻酔法です。
当クリニックでは、TLA単独使用にて過去14年間レーザー治療を行ってきましたが、全身麻酔などの追加の麻酔が必要だったかたはこれまでいません。
TLA麻酔自体は安全性が高いものですが、レーザー治療についてTLA単独では治療ができない施設も多く、プロポフォールなどの鎮静麻酔剤を併用しています。
プロポフォールによる鎮静麻酔法は内視鏡などの際に使用されているので、全身麻酔法とは異なりますが、呼吸循環に影響が出て危険を伴うことがあります。
鎮静麻酔は麻酔の種類としては、静脈麻酔ですので費用は通常の全身麻酔法に比べて費用の負担は少なく、3割の方で2000円程度です。全身麻酔では20000円ほどの自己負担となります。
TLA麻酔の創始者であるKlein先生もTLA麻酔は安全な麻酔だが、静脈麻酔を併用すると危険性が増すので併用しないように推奨しています。
安全な治療を行うためには、できるだけ安全な麻酔法が望ましいと思います。
その他の保険適用のレーザー
最初に保険適応となった980nmレーザーです。治療後の皮下出血や痛みが強く出ることが問題点です。当クリニックでは、現在使用していません。
保険適応の1470nmレーザー
メディコスヒラタのエンドサームレーザー1470です。最も細いスリムファイバーが使えます。再発症例や軽症例、下腿逆流のある症例に特に有効です。
レーザー治療以外の低侵襲治療法
ラジオ波(高周波)を用いた静脈瘤治療が平成26年度より日本でも保険適応となりました。
世界的にはレーザー治療より早く登場した血管内治療法です。
ラジオ波による静脈瘤の治療成績はほぼレーザー治療に匹敵しています。
ただ、レーザー治療に比べて、先端部が長く曲がったところが治療が難しいなど治療部位の制限があり、応用範囲はレーザー治療に比べて低いものと思われます。簡単な症例であれば、レーザー治療と同レベルの治療が可能です。
最近はラジオ波による下肢静脈瘤治療を比較的軽い症例に限っています。レーザー治療とほぼ同等の治療成績です。
エコーガイド下硬化療法
ヨーロッパ、オーストラリアを中心に良好な中期成績が報告されています。
エコーでみながら静脈瘤へ硬化剤を注射をして、静脈瘤を治療する方法です。エコーガイド下で的確に注射を行う技術を必要とする方法です。保険適応内で治療でき、軽症から中程度の静脈瘤のかたに適応がある方法です。
欠点としては、治療が何度か必要なことや、再発率がレーザー治療やストリッピング手術に比べて高くなることです。当クリニックでは、エコーガイド下硬化療法を切らない静脈瘤治療の選択枝のひとつとして取り組んでいます
接着剤による静脈血栓治療
医療用の接着剤を使用した新しい血管内治療も始まっています。
TLAの必要がないというメリットがあり、次世代の治療として有望視されています。アメリカ製のものとトルコ製のものがあります。現段階では血管を接着するというより内腔に接着材を入れて栓をするようなイメージの治療です。まだ新しい治療法ですので、長期的な成績は不明です。治療費が非常に高額なことや、正確な治療範囲を決定することが難しく、また異物として接着剤が残るため異物反応が強く出ることが欠点と思われます。日本でも4月から使用できるようになっています。今後経過を見てながら使用していきたいと考えています。